本作の大きな柱は「成長物語」です。minoriがこれまでの作品を通して描いてきた、「人間」とその周囲の世界、そして「想い」。『BITTERSWEET FOOLS』で群像劇を、『Wind -a breath of heart-』ではファンタジックな世界を通して表現しようとしたそれらを、よりストレートな形で、より純粋に、他の要素によって薄められる事なく描くこと――
それが3作目にあたる本作『はるのあしおと』の制作において私たちが定めたテーマです。
資格を持っていながらも、学生時代から住んでいた都会では教員になれず、その上失恋してしまった主人公・樹。彼がそんな自分の境遇、そして煮え切らない自分自身に対して採った行動は、「故郷の街に帰る」という「逃避」とも言えるものでした。
自然豊かな田舎町・芽吹野町。
樹はその故郷でくすぶりつづけます。しかし、ほんの小さなきっかけから始まる新しい日々と、その時の中で出逢う、自分とは違った生き方をする人々。今までの自分と、新しい自分。
それは希望に満ちた変化というよりも、新たな不安を沢山抱え込むことかもしれない。樹はまだ、そう考えます。そう。この時はまだ。
誰もがいつも心に持ち続ける、漠然とした不安や自分への焦り、そして前へ進む怖さ。
その渦の真っ只中にいる主人公と、彼を取り巻く人々、そしてそれらを包み込む自然という要素のみで、本作は静かに、けれどもしっかりと「人間」を描き出します。
どんな物事でもそうですが、純粋であればあるほど、そしてシンプルな物ほど、細部まで丁寧に創りあげることがその純度を引き上げるものと、minoriは考えます。
グラフィック・楽曲等はこれまで以上の完成度を。ムービーに関しても、前2作以上に作品世界を想起させるものを。そして、作品にとって最も重要な「核」である物語には、より深い味わいを。そうした心構えで制作にあたっております。
派手な仕掛けは敢えて避け、表現したいものをそのままに。
それがminoriの第3作『はるのあしおと』です。
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